堂本チャレンジ100年史

もともと広島は沿岸の干拓が進む前は、全国有数の養殖のりの産地でした。その海の幸をいつでも食べられるようにと、堂本格一は佃煮の製造販売を開始。
当初はリヤカーで売り歩く毎日でしたが、貴重な保存食として戦時下では重宝され、商いは徐々に軌道に乗っていきます。
これが堂本食品のチャレンジの第一歩となりました。

かつての佃煮づくりは手間と時間がかかるものでした。おいしさを変わらず保ちながら、もっと効率の良い作り方はないものか、と苦心して編み出したのが、「浮かし炊き製法」。通常は煮詰めて少なくしていく調味液を、あえて逆に多く増やしてしっかりしみ込ませ、残った液を再利用して次の調味に使うという発想で、生産性が格段に向上しました。
しかも本来は社外秘とするところを、佃煮業界の発展のためにと、惜しげもなく製法を公開したのです。

二代目社長の堂本博通は、技術と研究の人でした。もっといろいろな佃煮を、もっとおいしくつくりたい。その思いから、業界初の「佃煮試験室」を開設。徹底して味と品質の研究に力を注ぎました。
名前は硬いですが、いうなれば現代のテストキッチンのようなもの。今につながる堂本食品の研究開発の精神は、ここから大きく育まれました。

製造ばかりではない、営業でも堂本食品ならではのチャレンジがあります。
スーパーの佃煮の棚のとなりはほぼ漬物。ごはんのお供としてライバル関係でもあるのですが、どうせなら一緒に買いやすくしては、ということで、漬物会社に佃煮を卸してその会社のブランドをつけ、その会社の販売ルートで売ってもらうという方法をつくりました。

会社のさらなる発展を目指して造られた第２工場は、建設費が当時の売り上げの半分にも達する金額となりました。それまでの売り上げの伸び率を計算に入れても、ほぼ赤字が確定するような状況。それでも新しい時代のニーズをつかんでこたえていこうという思いが勝り、これを機に堂本食品は新たな商品の開発に取り組んで、さらにチャレンジを加速させていきます。

第２工場に入れた新しい機械、それはレトルト殺菌機でした。女性の社会進出、個食スタイルの登場など、手軽で簡単に食べられる食品のニーズにこたえるよう、レトルト食品の製造にチャレンジ。とくに釜めしの素は人気となり、順調に売り上げを伸ばしていきました。
ここから第２工場建設時の赤字を１０年で巻き返すことができました。

私たちのチャレンジはもちろん成功ばかりではありません。レトルト食品に適したメニューとしてお粥を選んで製品化したのですが、売り上げは鳴かず飛ばず。今でこそレトルト粥はポピュラーで数多くの商品がありますが、私たちが打ち出したのが当時では少し早かったのかと思いつつ・・・。
それでも次のチャレンジに向かっていきます。

堂本ならではの品質を守るために、私たちは毎年原料の生産者を訪問し、原料の質や異物混入がないかなどの確認を徹底しています。
原料メーカーと連携をとる一方で、私たち自らも金属検査機・X線検査機を導入するなど、チェックシステムを強化しました。
原材料から製造まで、すべてが「チーム」として、気持ちをひとつにして取り組むことをめざしています。

もともとは広島をはじめ山口や北九州を中心に商品を卸していた堂本食品。販路拡大を目指して、関西や首都圏へと営業の手を広げてきました。
はじめは一品でもいい、小さなつながりを糸口にコツコツと通いさまざまな提案を続けるうちに、いつしか先方から相談を受ける関係に。小さな差を積み重ねる「差積化」の実践が少しずつ、着実に実っています。

堂本食品の誇りでもある、安心安全で高品質な商品を海外にも広げたい。その思いから、タイや中国などで海外拠点づくりを進めています。
原材料を選別する厳しい目や、質の高い味、長く保存する技術など、日本のクオリティをそのまま実践。
現在の私たちにとって、なくてはならない大切な存在となっています。

栗ご飯用に作っていたむき栗、これはそのまま食べてもおいしいんじゃないだろうか？そもそも栗ってあの皮むきがとっても面倒だから。と、発想の転換で生まれたのが、世界初、皮をむいた甘栗「ぱっくりりん」です。発売するやいなや大人気の商品に。
しかし喜んだのもつかの間、３年ほどの大ヒット後、大手メーカーの競合商品に取って代わられて急降下。市販マーケットの厳しさを思い知らされました。

高齢化が進む中、シニア世代でも食べやすい、噛みくだきやすい商品を、と開発した「思いやり堂本便」。当初は病院食向けを意識して、軟らかい食感や塩分への配慮を優先させていましたが、あるとき高齢者施設で働かれているお客さまから「高齢者ほどおいしいものが食べたいんだ。通常の食事と同じ味にできないか」という声をいただき、目からうろこが落ちました。そこから再出発。
味に徹底してこだわり、改良に改良を重ねました。おいしさこそが食の喜びであることを肝に銘じ、さらなる商品の開発にチャレンジしています。

時代ごとのニーズの種を拾いながら１００年続いてきた堂本食品、その歴史は、企業が持続していくためのチャレンジの繰り返しでした。しかしこれからは、商売だけでなく社会を構成する一員として、地球環境への配慮とともにサステナブルを考えなければなりません。
たとえば排水を処理する際に発生するガスを再生可能エネルギーに利用するなど、安心安全な品質と同様に大切なテーマとして環境問題をとらえ、設備やシステムの改善に取り組んでいきます。