「私たちの商品は、生産者がいなければつくれない」
食品メーカーとして堂本食品が大切にしている思いです。
堂本食品が仕入れる原材料は約550種類。北海道から九州、そして中国、東南アジアまで、年に一度は生産地を訪れて、現地の気候の変化や海、土、水を実際に確かめ、生産者の声を聞くことで、収穫量や品質の見込みを立てて、仕入れを計画します。
しかし、現地を訪れるのは仕入れのためだけではありません。
生産者の人たちと、いかに長い付き合いができるか。お互いに良きパートナーとして横つながりのきずなを作ることも大切な目的です。なにかと効率重視の世の中にあって、あえて情の残る人間臭いやりとりを大事にする。
そんな堂本食品の生産地めぐりをご紹介します。
「私たちの商品は、生産者がいなければつくれない」
食品メーカーとして堂本食品が大切にしている思いです。
堂本食品が仕入れる原材料は約550種類。北海道から九州、そして中国、東南アジアまで、年に一度は生産地を訪れて、現地の気候の変化や海、土、水を実際に確かめ、生産者の声を聞くことで、収穫量や品質の見込みを立てて、仕入れを計画します。
しかし、現地を訪れるのは仕入れのためだけではありません。
生産者の人たちと、いかに長い付き合いができるか。お互いに良きパートナーとして横つながりのきずなを作ることも大切な目的です。なにかと効率重視の世の中にあって、あえて情の残る人間臭いやりとりを大事にする。
そんな堂本食品の生産地めぐりをご紹介します。
うららかな陽が水面にきらめく3月のよく晴れた日。堂本食品購買部参事の森田忠史が、取引問屋の瀬尾商店・瀬尾武史社長とともに訪れたのは、志摩市磯部町三ケ所。入り組んだリアス式海岸が、まるで湖のように穏やかな表情で迎えてくれた。のり佃煮の原料になるあおさのりは、全国の総生産量約1,000トンのうち60%強が三重県産で、さらにその70%以上は伊勢志摩産。まさに本場の中の本場だ。とりわけここ三ケ所は、昭和20年代から続くあおさのり養殖の浜。12軒の海苔師が養殖に携わり、どこよりも等級付けにきびしく、自他ともに認めるレベルの高さを誇っている。
配送、納品で協力していただいている瀬尾商店の瀬尾社長とは10年来の付き合い。毎年2人で伊勢志摩の浜をめぐる。
船で養殖場を案内してくれた海苔師の松村陽輝さん。森田とは毎年顔を合わせる旧知の仲。三ケ所の海苔師全員が顔見知りだ。
志摩の海と同じく柔らかい笑顔で待っていた海苔師の松村さん。まるで故郷の知り合いのような気さくなあいさつもそこそこに、森田が訪ねたのは海の様子だった。海苔の質は海の干満差で決まる。干満差がしっかりあると、海水に浸かって養分を吸収し、陽を浴びて色が濃くなりよく育つ。「今年は2月に雨が少なかったから」と答える松村さん。「海苔は雨と風で色がつく。海が穏やかなだけでも育たんのやね。今年はちょっと色が薄めかな」。いい海苔は肉厚で緑が濃い。網を揚げたとき、手のひらの横幅くらい大きく育っているという。
海苔網を張るための杭は3,500本。松村さんは毎年弟と2人でこの量を打ち込むという。9月から12月にかけて、杭を打っては網を張るを繰り返す。想像以上に重労働だ。
収穫は高級絨毯を扱うように、ていねいに網を広げてゆっくりと巻き取っていく。
収穫した海苔は船で桟橋の処理小屋へ運び、網から外し、葉洗いへと作業を進める。ゴミや異物の混入は海苔にとって死活問題。「それは生産者だけの責任じゃない。私たちの責任でもある。だから生産者や加工業者、問屋と一緒に、チームとして対策を考えるんです」と森田。品質を上げればロスが増える。生産者は苦しい。それをどうベストバランスにするか。だからこそ、しっかり付き合ってお互いに横の関係で信頼を築き、レベルを上げることをめざすことが大切だと言う。松村さんが特注で制作した葉洗い機が勢いよく回り出す。海水の濁りが取れていき、海苔が見る見る鮮やかな緑に輝きだした。
「脱穀式」と呼ばれる方法で網から海苔をはずしていく。なるほど穀物の脱穀によく似ている。
松村さんオリジナルの葉洗い機。洗った海苔は上層に、汚れた海水は下層から排水する仕組み。
「さばき」を見学しに海苔師の崎川雅弘さんを訪問。脱水した海苔を小さな熊手に似た道具で手際よくさばく(ほぐす)。「手際によって海苔の照りが違うから、これだけは自分で」。
「安く買うのがね」と冗談めかして話すのは、鳥羽磯部漁業協同組合三ケ所支所の山川理事だ。森田が志摩を訪れる理由にもうひとつ、あおさのりの買い付けという重要な仕事がある。海苔の入札は年に8回、1月下旬から始まり、2週間に1度のペースで続いていく。最初がいいかというとそうでもない。8回のうちどこで入札するかも大切なポイント。だから現地に足を運び、海を見て作高を確かめ、それをもとに作戦を練る。しかし「安く買うよりも大切なことがある」と森田は言う。
伊勢志摩サミットのとき、特需であおさのりが高騰、その翌年に反動で大きく暴落したことがあった。「値崩れしても通常時と同価格で入札しました。生産者を裏切らない、買い支えることも大切な役割だから」。山川理事をはじめ、漁協の役員は入札のとき別室で入札者の価格をすべて見ている。「堂本さんがいくらで応札したかもまるわかりです」と笑う山川理事。
「入札後、この価格で入れてくれてありがとう、とわざわざお礼の電話をもらうこともあるんですよ」と森田が笑顔で返す。その関係は商売だけではないように見えた。
ふと森田がそうつぶやいた。訪れた海苔師、松村さんのあおさのり養殖は、祖父の代から50年続く。「昔は天日干しでとても手間がかかった」と笑う松村さんだが、杭打ちをはじめ今でも相当な重労働だ。1日の水揚げは網10枚程度、1枚4~5キロで年間の収穫量は約1.5トン。昔はこの倍はあったという。「跡継ぎ?むずかしいねえ」。収穫量も減りつつある中で、子どもに継がせるほどの収入が見込めない不安がある。だからこそ安定した価格で収入を確保できるように、生産者を守ることも大切だ。「生産者の努力、品質がわかると、仕入れに変な値付けはできない」と森田は言う。「堂本食品の商品は高いとよく言われます。それでもむやみに価格を下げることをせず、なによりも品質を最優先してきました」。毎年毎年、北から南まで生産地を訪ねる森田の姿勢は、「生産者がいなければ商品はつくれない」という堂本食品の言葉そのものだった。
(2022年3月取材撮影)
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